仙台高等裁判所 昭和25年(ナ)4号 判決
原告 麻生寛道
被告 宮城県選挙管理委員会
一、主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、請求の趣旨
原告訴訟代理人は、「昭和二十四年十月九日白石町において行われた町長解職請求に基く賛否投票を無効とする、被告が原告の訴願に対し昭和二十四年十二月二十六日した裁決を取り消す、訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求めた。
三、事 実
一、原告は宮城縣刈田郡白石町の町長であるが、被告補助参加人鈴木ムメ外二百三十六名は、白石町長解職請求代表者として同町長解職請求者署名簿に同町における選挙権を有する者の署名捺印を求め、有権者総数九千七百七十七名中法定数三分の一以上に当る四千百二十八名の連署を得たとしてこれを同町選挙管理委員会に提出して同町長解職の請求をし、同町選挙管理委員会は解職請求を有効なものとして昭和二十四年十月九日賛否投票を行つた結果、投票総数七千九百一票中賛成投票三千九百七十一票、反対投票三千六百八十五票、無効投票二百四十五票と公表した。原告は即日同町選挙管理委員会に右投票の効力に関する異議の申立をしたが同月十九日右申立を却下されたので、更に同年十一月八日被告に訴願したが、同年十二月二十六日右訴願却下の裁決があり該裁決書は昭和二十五年一月五日原告に送付されたものである。
二、本件町長解職請求者署名簿(甲第一号証)は、当初第一号から第七一号まで七十一冊作成され、それぞれこれに有権者の署名を求めた後、これを第一号綴から第五号綴まで五冊に纏めて照合手続のため白石町選挙管理委員会に提出されたものである。その内訳は、第一号から第一〇号までを第一号綴に、第一一号から第二三号までを第二号綴に、第二四号から第三四号までを第三号綴に、第三七号から第五〇号までを第四号綴に、第五一号から第七一号までを第五号綴にそれぞれ合冊したものである。なお第三五号第三六号は欠号になつているが、その外第二号綴中第一八号、第三号綴中第三〇号、第四号綴中第三九号第四〇号、第五号綴中第五二号第五五号第五八号第五九号、第六一号から第六三号まで及び第六六号から第六八号までがそれぞれ欠号になつていて、これに相当する署名簿は合冊した五冊中に存しない。
三、尤も第一号綴中の第二号と第三号との間にある一七三番から一八二番まで、一八三番から一八八番まで、第三号と第四号との間にある二四一番から三二七番までの分は、いずれも独立した署名簿のようにみられるが号数の記載がないから何号の署名簿に相当するか不明である。
四、本件署名簿は、下記のように法廷の要件を欠くものであるから無効である。從つてこれに記載された署名はすべて無効である。
(一) 署名簿は、町長解職請求者署名簿であることを表紙に記載しなければならないものであるが、本件署名簿はいずれもこの表示を欠いているばかりでなく、これを合冊した第一号綴から第五号綴にもこの表示をしていない。
(二) 署名簿には、これに署名を求めるに際し解職請求の要旨又はその写及び解職請求代表者証明書又はその写を添付しなければならないものであるが、
(イ) 第一号綴中第八号及び第一〇号の署名簿にはいずれも解職請求の要旨又はその写が添付されていない。
(ロ) 第二号綴中第二〇号第二二号、第三号綴中第二九号第三一号、第四号綴中第四九号第五〇号、第五号綴中第五一号第五三号第五四号第五六号第五七号第六〇号第六四号第六五号第六九号第七〇号の署名簿に現に添付されている解職請求の要旨はいずれも用紙が新しくこれを持歩いた形跡は全く認められないから、この分は署名を求める際に添付されたものではなくその後において添付されたものであることが明らかである。
(ハ) 前掲三の号数不明であるが独立した署名簿であるとみられる第一号綴中の第二号と第三号との間にある一七三番から一八二番まで、一八三番から一八八番まで、及び第三号と第四号との間にある二四一番から三二七番までの分には、いずれも解職請求の要旨又はその写及び解職代表者証明書又はその写が添付されていない。この分は前掲二の欠号の分のいずれに相当するものか不明であるが、この点を別として前掲二の欠号の分には勿論右の要旨、証明書又はそれらの写の添付されていることが認められない。
(三) 署名簿は、順を追うた番号の下に署名捺印するもので從つて署名簿毎に署名番号を付したものでなければならないが、本件署名簿は署名簿毎に右番号を付せず、署名を求めた後に合冊した第一号綴から第五号綴までの五冊につきその各冊毎にこれを付しているに過ぎない。
又署名簿における連署は、順を追うた番号による各行の間断なき使用及び署名簿の各用紙間の契印を必要とするが、本件署名簿中この要件を具えているのは第三号綴中の第二四号だけで他はいずれもこの要件を備えていない。即ち
(イ) 番号と番号との間に数行の余白又は数枚の署名をしない用紙をおいてあるものは次のとおりである。
第一号綴中
八一番と八二番との間 八枚十三行
一七二番と一七三番との間 七行
一八二番と一八三番との間 十行
一八八番と一八九番との間 十四行
二四〇番と二四一番との間 八行
三二七番と三二八番との間 八枚八行
四〇〇番と四〇一番との間 九枚六行
四四一番と四四二番との間 十枚十九行
五〇四番と五〇五番との間 四枚十六行
七八〇番と七八一番との間 一枚十七行
九一七番と九一八番との間 八行
第二号綴中
二一番と二二番との間 二枚十八行
一一三番と一一四番との間 三枚七行
一六四番と一六五番との間 四枚九行
二二一番と二二二番との間 四枚十七行
二七四番と二七五番との間 四枚四行
三四二番と三四三番との間 四枚一行
四一八番と四一九番との間 三枚一行
五七八番と五七九番との間 六枚十五行
六八四番と六八五番との間 二枚九行
七八四番と七八五番との間 二枚十九行
第三号綴中
一四四番と一四五番との間 一枚五行
三一四番と三一五番との間 二枚二行
四四七番と四四八番との間 二枚十三行
五三二番と五三三番との間 五行
五四一番と五四二番との間 二枚十一行
六四三番と六四四番との間 二枚十二行
七九〇番と七九一番との間 六行
九〇〇番と九〇一番との間 二枚五行
九五八番と九五九番との間 四枚
一〇三四番と一〇三五番との間 四枚四行
第四号綴中
六〇番と六一番との間 五枚十九行
一〇五番と一〇六番との間 十六行
一六六番と一六七番との間 四枚十九行
三三七番と三三八番との間 七枚一行
四五一番と四五二番との間 二枚三行
五三三番と五三四番との間 三枚十六行
六七七番と六七八番との間 八枚十三行
七八二番と七八三番との間 二枚十五行
八八〇番と八八一番との間 三枚二行
一〇三九番と一〇四〇番との間 一行
一一五六番と一一五七番との間 二枚三行
一一九三番と一一九四番との間 六枚三行
第五号綴中
一八番と一九番との間 七枚一行
六五番と六六番との間 五枚九行
七三番と七四番との間 七枚十二行
一六三番と一六四番との間 三枚十行
一九八番と一九九番との間 五枚四行
二五九番と二六〇番との間 三枚十八行
二八四番と二八五番との間 六枚十五行
三一八番と三一九番との間 四枚十六行
三九一番と三九二番との間 三枚十八行
四二八番と四二九番との間 四枚二行
(ロ) 第二号綴中二七六番から二七九番まで、五一〇番、第四号綴中八七番二九一番はいずれも欠番となつており、第五号綴中四一八番四七一番はいずれも番号が重複している。
(ハ) 第二号綴中二三二番二三四番五二六番五二九番九〇二番九一一番、九九八番から一〇〇一番まで、第三号綴中一〇三番一〇四番五七五番五七六番、一一二〇番から一一二七番までは、番号のみが付してあつて署名捺印がなく、又は署名捺印があつてもこれを削除してある。
(ニ) 第二号綴中四八八番四八九番五三〇番、第四号綴中八六八番、第五号綴中二六九番にはいずれも署名者の捺印がない。
(四) 署名簿には、これに署名捺印した者が選挙人名簿に記載された者であることを選挙管理委員会において確認したときは、照合簿との間に契印を押さなければならないものがあるが、第一号綴中一六六番、第二号綴中三二五番、第三号綴中二七七番、五八三番、第五号綴中三七四番には照合簿との間の契印がない。
(五) 市町村選挙管理委員会は、照合簿と署名簿との契印が終つた後、署名者の数及びその者の中で選挙人名簿に記載された者の数を計算しこれを署名簿の末尾に記載しなければならないのであるが、本件署名簿には末尾にいずれもこの記載がない。仮に第一号綴から第五号綴に合冊された五冊につき各その末尾に右の記載をすれば足るものとしても、右五冊のいずれにも末尾にこの記載がない。
五、署名簿における有権者の署名は自書であることを要するが、本件署名簿の署名中千数百に及ぶ多数のもの(甲第三号証の記載及び記録二九三丁添付の原告提出の自書にあらざるものの調査書と題する書面参照)は何人かが代筆したもので自書でない。從つてこの自書でない署名は無効である。
六、町長解職の請求は、署名簿における有効な署名の数が有権者の総数の三分の一以上に達しなければ行うことができないのであるが、本件署名簿の有効な署名の数は、前掲四及び五による無効の署名数を除くと右法定数に達しない。從つて本件町長解職の請求は無効であるから、これに基いて行われた本件賛否投票は無効である。
七、地方自治法に規定された直接請求権は、憲法第十五條の規定による国民固有の権利に属するものであるから、憲法第十二條の規定により常に公共の福祉のために利用する責任がある。地方自治体の長の地位は、公民の自由意思による選挙で定まるものであるから、その解職請求権の行使は、その手段によるのでなければ公共の福祉が保持されない場合に限定されるべきである。その基準は、
(一) 長期間の疾病のため職務の執行が不能となつたとき、
(二) 犯罪の嫌疑で拘束され又は起訴されたとき、
(三) 職員の統卒よろしきを得ず、公金の費消、事務の紊乱、綱紀の弛緩などが甚しく、他の方法による改善の見込がないとき、
(四) 議会と衝突し行政の円満な運営を期し難い場合においてその非が長にあるとき、
(五) 涜職又は素行不良で住民の指彈を受け全く信望を失うに至つたとき、
等であると解するのが正当である。しかるに本件解職請求代表者の主張する本件町長解職請求の理由は甲第四号証記載のとおりであつて、全然この基準に合していない。殊にその直接原因となつた中学校建築にからむ問題その他は、町長が町議会の意思により忠実にその職責を実行しつつあるものであつて、その責任は町長一人に帰属さるべき筋合のものではないのである。かかる場合にみだりに解職請求権の行使を許すならば地方自治体の長も議員も安心してその職にあることができなくなり地方自治の健全な発達を阻害するに至るべきは火を見るより明らかである。よつて本件解職請求代表者の主張する請求要旨による解職請求権の行使は、地方自治法の精神に反するばかりでなく実に憲法第十二條の規定に反するものと思料する。よつてこの点からしても本件解職請求に基いて行われた本件賛否投票は無効である。
八、以上の理由により原告は被告に対し前掲判決を求める次第である。
(立証省略)
被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する」との判決を求め、答弁として次のとおり述べた。
原告主張の事実中、一及び二の事実は爭わない。三の事実は爭う。四の事実中、
(一)の事実は爭わないが、署名簿の表紙に町長解職請求者署名簿であることを表示することは署名簿の要件でない。從つて右表示を欠いても署名簿の効力を失わない。
(二)の(イ)の事実は爭わない。しかし本件署名簿には、これに署名を求める際、署名簿毎に解職請求の要旨又はその写及び解職請求者証明書又はその写か添えてあつたもので、これをそのまま五冊に合冊して照合手続のため白石町選挙管理委員会に提出したものである。仮に右提出の際右書類を添付しないものがあつたとしても、署名を求める際に添付してあつた以上違法というに当らない。
同(ロ)の事実は爭う。本件署名簿に現に添付されている解職請求の要旨は、署名を求める当初から添付されていたものである。
同(ハ)の事実中、欠号の分について署名簿がなく從つて解職請求の要旨、証明書又はこれらの写の添付されていない事は爭わない。
(三)の冐頭記載の事実は爭う。本件署名簿は、これに署名を求める際、署名簿毎に署名に番号が付してあつた。仮に右番号が原告主張のように後に記載されたものとしても、署名に右番号を付すことは要件でないから署名を求める際これを欠いていても署名簿の効力を失わない。
同(イ)の事実は爭わない。しかし本件署名簿の署名は、署名簿毎にこれを連続して求めたものであつて、番号間の空白部分は合冊した各署名簿の末尾に当る部分である。その他行間に多少の余白部分があるとしても署名の連続を欠いているものとはいわれない。又署名簿の各用紙間に連続を証するための契印を押すことは法律の要求するところではない。
同(ロ)及び(ハ)の事実は爭わない。しかし署名に番号を付すことは要件ではないから右番号に僅少なくいちがいがあつても署名簿の効力を左右するものではない。
同(ニ)の事実は爭う。第二号綴中四八八番四八九番にはそれぞれ山田という丸印、五三〇番には字体不明であるが角印、第四号綴中八六八番には三 という丸印、第五号綴中二六九番には鈴木という丸印が押してある。
(四)の事実は爭わない。しかし僅か四、五名の署名につき照合手続における照合簿との間の契印を押してないとしても署名簿全体の効力に消長がない。
(五)の事実は爭わない。しかし本件においては別紙(乙第一号証)に署名者の数及びその者の中で選挙人名簿に記載された者の数を記載してこれを署名簿と共に解職請求代表者に交付したのであるから、この手続が採られた以上署名簿の末尾に右計数を記載しなくても違法でない。
五の事実は爭う。本件署名簿の署名中、白石町選挙管理委員会において有効なものとされた署名は、全部自書である。
六の事実は爭う。本件署名簿における有効署名の数は法定数である有権者の総数の三分の一以上に達するものであるから、本件解職請求に基く賛否投票は有効である。
七の事実中、本件解職請求の理由が甲第四号証記載のとおりであることは爭わないが、その余は爭う。
(各立証省略)
四、理 由
原告主張の一及び二の事実は当事者間に爭がない。(三の事実については後に原告主張の四の(二)の(ハ)のところで判断する)原告主張の四の事実中、
(一)の事実は当事者間に爭がない。しかし町長解職請求者署名簿は地方自治法施行規則に定める様式に從い表紙にその解職請求者署名簿であることを記載しなければならないものであるが、その趣旨は要するに右簿冊が町長解職請求者署名簿であることを一見して明瞭ならしめるために過ぎないものと解すべきであるから、簿冊の内容からして容易にこれを知り得るものである以上右表紙の記載を欠いても直に署名簿の効力を左右するものということはできない。
(二)の(イ)の事実は当事間者に爭がない。署名簿には、これに署名を求める際に解職請求の要旨又はその写及び解職請求代表者証明書又はその写を添えなければならないことはいうまでもないが、これを添えないで署名を求めた署名簿は効力がなく、從つて該署名簿の署名は無効といわなけばならない。しかるに本件署名簿は第一号から第七一号まで作成され、これに署名を求めた上第一号綴から第五号綴まで五冊に合冊して照合手続のため白石町選挙管理委員会に提出されたものであることは当事者間に爭がなく、右事実と当事事者間に爭のない第一号綴中第八号及び第一〇号の署名簿に現に請求の要旨の添付されていない事実に徴すると、他に反証のない限り、右第八号及び第一〇号の署名簿は照合手続のため第一号綴中に合冊されて選挙管理委員会に提出された当時請求の要旨又はその写の添付されていなかつたことを推認されるのは勿論、これに署名を求める際にも右請求の要旨又はその写を添えなかつたものと推認せざるを得ない。証人渡辺孝四郎、管野長藏、大場俊一の証言を綜合すると、白石町選挙管理委員会においては照合手続のため本件署名簿綴五冊の提出を受けた際右書類添付の有無について必ずしも精細に調査しなかつたことが窺われ、これに徴すると右渡辺、大場証人の証言中右第八号及び第一〇号の署名簿に請求の趣旨の添付されていたことに関する部分は採用できない。この点に関する証人鈴木ムメ(第一回)及び山田活吉の証言は措信できないし他に右推認を覆すに足る証拠はない。從つて右第八号及び第一〇号の署名簿はいずれも効力なくその署名は無効というべきである。
同(ロ)の事実について見るに、原告主張の第二号綴中第二〇号第二二号、第三号綴中第二九号第三一号、第四号綴中第四九号第五〇号、第五号綴中第五一号第五三号第五四号第五六号第五七号第六〇号第六四号第六五号第六九号第七〇号に現に添付されている請求の要旨又はその写については、檢証の結果によると、本件署名簿中第一号綴の第一号、第二号綴中の第二三号に添付されているそれは破損又は汚損の程度が特に目立つているものであるが、その他は概してその破損又は破損の程度に大差なく、從つて原告主張の右署名簿添付の請求の要旨が果して署名後に添付されたものであるかどうかはこの点からしては容易に識別し難いものであることが認められる。從つて原告主張のように右請求の要旨又はその写の用紙の新しい点からして直に署名後に添付されたものであると断ずることはできない。この点に関する甲第二号証の一から四三〇までの記載内容は未だ信を措くに十分でなく他に右原告主張の事実を肯認するに足る証拠はない。
同(ハ)の本件署名簿第一号綴中の第二号と第三号との間にある一七三番から一八二番まで、一八三番から一八八番まで、第三号と第四号との間にある二四一番から三二七番までについて見るに、本件署名簿であることに爭のない甲第一号証及び檢証の結果を綜合すると、右第一号綴中の第二号八二番から一七二番までの署名は昭和二十四年五月二十四日から始まり同年六月七日までのものであるが、その後七行の余白を残し別頁に再び同年五月二十六日から始まり同年六月七日まで一七三番から一八二番までの署名があることが認められるのであつて、右第二号署名簿の全体からすると右一七三番から一八二番までの署名は前の一七二番までの署名に対し連続して記載されたものとは認められない。又右一八三番から一八八番までの署名も、前の一八二番との間に十行の余白を残し別頁に再び昭和二十四年五月二十六日の日付に遡つて始められたもので、次の第三号一八九番との間に十四行の余白があることが認められ、又第三号と第四号との間にある二四一番から三二七番までの署名についても、前の昭和二十四年六月十日付二四〇番との間に八行の余白を残し別頁に同年六月六日の日付に遡つて始められ次の第四号三二八番との間に八枚八行の余白があることが認められるのであつて、いずれも前同様前の署名に対し連続して記載されたものとは認められないのである。この点に関する証人鈴木ムメ(第一回)及び山田活吉の証言は信を措くことができない。以上の事実と当時者間に爭のない本件署名簿綴中に欠号のものが存する事実とに徴すると、右はむしろ原告主張のように号数は不明であるがいずれも独立の署名簿に相当するものであることを推認することができる。しかるに前示甲第一号証及び檢証の結果を綜合すると、右署名簿と推認されるものには現にいずれも請求の要旨又はその写及び解職請求代表者証明書又はその写が添付されていないことが認められるから、反証のない限りこれに署名を求める際にも右書類が添えられていなかつたことが推認される。前示措信しない証言を除いて他に右推認を覆すに足る証拠はない。よつて原告主張の右番号の署名は、前示四の(二)の(イ)の冐頭で説明したと同様の理由で無効を免れないものである。
なお原告は、右の他欠号の分の署名簿にはいずれも請求の要旨又はその写および解職請求代表者証明書又はその写の添付が認められない旨主張するが、この分については、原告において、その署名簿が白石町選挙管理委員会に提出されて照合による確認の手続を経たこと從つてその署名の数が本件有効署名の数に計算されていることを主張するものでない限りここに問題となるものではない。
(三)の冐頭の事実についてみるに、署名簿は、順を追うた番号の下に署名捺印するもので從つて署名簿毎に署名に番号を付したものでなければならない。しかるに本件署名簿は署名簿毎に右番号を付したものであることを認めるに足る証拠がなく、檢証の結果によると、署名を求めた後に合冊した前示第一号綴から第五号綴までの五冊につきその各冊毎に右番号を付したものであることが認められる。しかしこの点の瑕疵は未だ署名簿の効力を左右するに足るものということはできない。又署名簿の署名は連続して記載されなければならないのであるが、その行間に多少空白の部分があつても全体として連続が認められる限り連署を欠くものということはできない。又署名簿の各用紙間には連続を証するための契印を押捺することを要するものであるが、仮にこれを欠いても他の点からしてその連続を認められるものである限り、右契印を欠くことからして直ちに連続を欠くものということはできない。
同(イ)の事実は当事者間に爭がない。しかるに第一号綴中の一七二番と一七三番との間、一八二番と一八三番との間、一八八番と一八九番との間、二四〇番と二四一番との間、三二七番と三二八番との間の各余白の部分については前示(二)の(ハ)に説明したとおりであつて、結局右一七三番から一八二番まで、一八三番から一八八番まで、二四一番から三二七番までの署名は前示理由により無効を免れないものである。しかし前示甲第一号証及び檢証の結果を綜合すると、第三号綴中の五三二番と五三三番との間、第四号綴中の一〇五番と一〇六番との間の各余白の分は全体からすると署名の連続を欠く程度のものとは認められないし、その他は本件署名簿を前示第一号綴から第五号綴の五冊に合冊した際各署名簿の末尾の余白の部分に相当するものであることが認められるから、かような余白の部分があつても署名の連続を欠くものということはできない。
同(ロ)の事実は当事者間に爭がない。しかし署名番号にこの程度の多少の欠番又は重複があつても、全体から見て末だ連続を欠くものということはできない。
同(ハ)の事実は当事者間に爭がない。しかし署名番号に多少のくいちがいがあつても全体からみて連続を欠くものということはできないことは前示と同様である。なお前示甲第一号証及び檢証の結果を綜合すると、右番号に相当する分は照合手続により有効な署名と認められておらず從つて有効署名の数に計算されていないことが認められるから、この分は有効署名の法定数の計算上には問題とならないものである。
同(二)の事実について見るに、署名簿の署名はその名下に捺印することを要するものであつて、右捺印を欠く署名は無効といわなければならない。しかるに第二号綴中五三〇番については、檢証の結果によると、同番号下の丹野せんの署名下に印影の有無が判然としないことが認められる。從つてその捺印のあることを認めるに十分でないから右五三〇番の同人の署名は無効といわなければならない。しかし署名簿の署名中に偶々かような無効の署名があつても署名簿そのものの効力に影響を及ぼすものでないことは勿論である。又第二号綴中四八八番四八九番、第四号綴中八六八番、第五号綴中二六九番については、檢証の結果によると、右四八八番の山田道夫、四八九番の山田千代乃の各署名下にはそれぞれ山田という丸印、右八六八番の三浦キヌの署名下には三浦という丸印、右二六九番の鈴木のぶの署名下には鈴木という丸印がそれぞれ押された形跡をかすかに認めることができるから、この分について捺印を欠いているものとは認め難い。
(四)の事実は当事者間に爭がない。しかし前示甲第一号証、成立に爭いのない乙第一号証及び檢証の結果を綜合すると、原告主張の第一号綴中一六六番、第二号綴中三二五番、第三号綴中二七七番五八三番、第五号綴中三七四番については照合手続により有効署名と認められておらず從つて有効署名の数に計算されていないものであることが認められるから、右番号の署名に照合簿との間の契印を押してないことは当然であつて問題とならない。
(五)の事実は当事者間に爭がない。しかし前示乙第一号証及び証人渡辺孝四郎の証言を綜合すると、白石町選挙管理委員会は、本件署名簿に署名した者の数及びその中で選挙人名簿に記載された者の数即ち有効署名と認めたものの数を計算し、これを署名簿の末尾でなく別紙に記載して、本件署名簿と共にこれを解散請求代表者に交付したことが認められるのであつて、かような措置の採られた以上その措置の不当なことは免れないとしても未だ署名簿の効力を左右するものということができない。
次に原告主張の事実について案ずるに、署名簿の署名は自書でなければならないことはいうまでもない。しかるに、
(一) 前示甲第一号証、鑑定人加藤豊一郎、同長谷川健次の各鑑定の結果及び証人山村国松の証言を綜合すると、原告主張の本件署名簿の署名中別紙目録第一欄記載の署名はそれぞれ同一筆蹟のものであることが認められる。右同一筆蹟の署名は、反証のない限りその中の一名が他を代筆したものと推認するのが相当であると解するから、代筆者一名を除き他の署名は自書でないものとして無効とすべきである。その場合代筆者が同一筆蹟のものゝ中のいずれに属するかは問題であるが、そのいずれに属するものとしても自書又は自書でない署名の数を算出する上においては異同を生ずるものではない。尤も右同一筆蹟と認められるものの中には、既に白石町選挙管理委員会において代筆による署名と認め有効署名数の計算から除外されているものもあることが認められているのであるが、この場合は有効署名と認められた右同一筆蹟の他の者については、特にこの分も代筆されたものと認むべき証拠がない限りこれを有効とするのが相当であると解する。右の方法によつて計算するときは、右同一筆蹟と認められる者の署名の中自書でないものとしてその署名を無効とすべきものの数は、別紙目録第二欄記載のとおり合計三百四十四となる。(なおこの他、前示鑑定の結果及び証人大浦昌の証言によると、本件署名簿第一号綴中、一七三番から一八八番まで、二四一番から三二七番まで、並びに同号綴中第八号及び第十号の署名簿の署名の中にも自書でないもの又は少くとも同一筆蹟と認められるものが含まれていることが認められるのであるが、この分は原告主張の四の(二)の(イ)及び(ハ)の事実につき判示したとおり、これを記載した署名簿の効力が認められないものであるから、右の署名は自書又は自書でないものの如何を問わずすべて無効といわなければならないものであることは勿論である。)
(二) 前示甲第一号証、証人高橋清、畠山よしい、伊藤幸藏の各証言を綜合すると、本件署名簿第四号綴中二六六番二六七番二六八番、第五号綴中二九番の署名は、いずれも自書でないことが認められるから、右署名はいずれも無効というべきである。
前示鑑定の結果中右認定に反する部分は採用しない。この点に関する甲第二号証の一から四三〇まで及び甲第六号証の記載は直に信用し難く、他に右認定を左右するに足る証拠はない。從つてこの点に関する原告の主張中右認定の範囲以外はこれを認めることができない。
原告主張の六の点について見るに、町長解職の請求は、署名簿に署名した者で選挙人名簿に記載された者と認められた者の数即ち有効署名の数が有権者の総数の三分の一以上に達しなければこれを行うことができないのであるが、本件署名簿の署名中白石町選挙管理委員会において有効署名と認められた者の中、前示のように署名の無効であることを免れないものについては、これを右有効署名の数から控除しなければならないことはいうまでもない。右控除すべき無効は署名の数は結局次のとおりである。
(一) 前示四の(二)の(イ)に判示した第一号綴中第八号及び第十号の無効な署名簿に記載された署名の分については、前示甲第一号証によると、第八号の署名簿の分百十一、第十号の署名簿の分八十五、合計百九十六であることが認められる。
(二) 前示四の(二)の(ハ)に判示した第一号綴中第二号と第三号との間にある一七三番から一八二番まで、一八三番から一八八番まで、第三号と第四号との間にある二四一番から三二七番までの署名の分については、前示甲第一号証によると、それぞれ十、六及び七十六合計九十二であることが認められる。
(三) 前示四の(三)の(二)に判示した第二号綴中五三〇番の署名一。
(四) 前示五に判示した自署でない署名の分合計三百四十八。
以上合計六百三十七名の署名は本件署名簿の有効署名の数から控除すべきものである。しかし本権有権者の総数が九千七百七十七名であることは当事者間に爭がないから、前示白石町選挙管理委員会において本件署名簿の有効署名として認めた数からこれを控除しても右有効署名の数はなお優に法定数である有権者の総数の三分の一以上に達するものであることは計算上明である。よつてこの点に関する原告の主張は結局採用することができない。
原告主張の七の点について案ずるに、本件解職請求の要旨が甲第四号証記載のとおりであることは当事者間に爭なく、同号証の記載によると、右請求の要旨は、白石町長はその就任に当つて公約した町民負担の軽減、教育文化の振興、町政の民主化を無視し、ために町民の負担はぼう大となり教育文化は見るべきものなく町政の民主化は行われていない、殊に中学校敷地問題については町民の世論を省みず、町の有志婦人がこれについて所信を披瀝したところ婦女子は政治に関與すべからずといつたとかいうことであり、もはや町政を託し得ない、という趣旨であることが窺われる。尤も右請求の要旨の説明は、具体的な事実について必ずしも十分なものでなくその趣旨の明瞭を欠くものがないとはいわれない。しかしその事実の存否はともかくとして、かような趣旨の記載が認められるものである以上右請求の要旨について未だ法律上解職請求の理由となり得ないものと解すべき根拠はないものといわなければならない。勿論仮に右要旨から推測されるような事実が單なる誤解もしくは誹謗で全く存在しないものであるとすれば、解職の請求は事質上その当を得ないものといわなければならないのであるが、かような事実の存否及びこれに基く請求の当否については、一に有権者である町民の良識ある判断にまつ外ないのであつて、裁判所においてこの点にまで立入つて判断すべきものではないのである。要するに前示請求の要旨によつて必ずしもその解職請求をなし得ないものではないと解するからこの点に関する原告の所論は肯認することができないものである。
以上により原告の本訴請求は結局理由なきものとして棄却すべきものである。
よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九條第九十五條を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 谷本仙一郎 村木達夫 斎藤壽郎)
(別紙目録省略)